ドイツのユニークな“まちづくり”
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村の中心地に出来たゆとりの場

ロスドルフの農村整備計画2

農村整備計画以前のロスドルフの村の様子

改行マーク先月ここでとりあげたロスドルフ村計画の、 今回はその続編である。

改行マークこの村は旧来、 道路が出来それに面して家が建ち並んで発展して出来たごく一般の農村村落である。 したがってここには、 ドイツの多くの古い村落にみられるような、 領主の城壁があり村の中心に広場があるといったような、 中世に計画されて作られた歴史ある旧都心部(アルトシュタットAltstadt)がなく、 いわばごく自然に発展してきたまとまりのない村落である。

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1 パーテイ広場
改行マーク村落ほぼ中央あたりに役場があり、 ここがちょっとした広場の形態をしているが、 広がったところは5つの道路の交差点になっていて、 バス停や歩道などの道路施設に敷地をとられ都心の機能をはたしていない(図1)。

改行マークその周辺に2、 3軒の地域の生活必需品を補っている商店が道路沿いに集まっている。 近くの教会も道路に沿って建てられている。 ここでは道路が重要な生活空間となっている。

改行マーク村の骨格である道路は交通量が多く、 さらに広域道路網が村の中心を通っていることからトラックの通過交通もはいりこんでいる。 そのため上述のように道路が生活空間であるロスドルフは都市環境がはなはだ悪い状態である。

改行マーク以上が、 農村整備計画がはじまるまでのロスドルフの状況であった。


ガイスベルク周辺整備計画

環状線道路計画の見直し

改行マークガイスベルクは村の中心部にある、 ウィルヘルム ロイシュナー通りとダルムシュテッター通りとの2方から入る大きな区域である。 農村整備計画がはじまるまでこの地域は、 前回とりあげた道路拡張計画の一環としてここに環状線道路が通る予定であった。 そのためこの周辺一帯の敷地は役所が買い取りそのまま放置されていたものである。

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2 アンガーのある広場からガイスベルク入り口
改行マークさてここで新しく農村整備計画を作成するにあたって、 これまでの道路計画の見直しが行われることになる。 町をこれ以上クルマに占領させてはいけない、 町の中の道路はクルマ以外、 住民のためにも必要である、 といった従来までの道路計画専門とはちがった考え方を持つ都市プランナーが作業をはじめる。 まずこの小村落に環状線道路は不要ということを提案し、 この場所を地域中心部の近郊レジャー施設として整備することを提案する(図2)。


なぜ、 道路計画を変更できたか

改行マークこういった計画の変更、 すでに計画決定され土地の買い取りまで終わっている計画をあとから変更するのはドイツでもあたりまえのことではない。 これが可能であったことはこの時期において、 市街地を通る幹線道路の拡張についての市民一般の価値観の変化があったことは確かである。

改行マーク例えばロスドルフの隣接都市ダルムシュタットが1970年代行なっていた再開発事業、 ウェスト・タンゲンテ(West-Tangente)は都心部道路拡張を主体とした当時ドイツ最大規模のものであった。 それが住民反対もあったが、 それよりも世間一般の価値観の変化で、 この再開発事業は立ち消えというか、 道路の一部は家並みを後退させて拡張が行なわれ、 残りの大半は放置されたまま、 現在、 後退させた部分に街路樹を植えどうにか格好がつけられている状態である。


道路のかわりに近郊レジャー施設をつくる

改行マークここで新しく提案された構想は、 村の中心部を区切るクルマのための環状線をつくるかわりに住民のための近郊レジャー施設をここにつくる。 これまで道路用地として村が買い占めているガイスベルク一帯に隣接し、 もう25年間ほど使われていない墓地を将来この近郊レジャー施設にとりこみたい、 というものである。

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3 計画以前のロスドルフ中心地域図
改行マーク計画はここ一帯に散歩道を作る。 子供の遊び場やベンチや異なった植樹によるそれぞれ違った区域を作り、 この散歩道をたどってそれらの施設を結びつける。 この構想はウィルヘルム・ロイシュナー通りから墓地までに一本の散歩道が通る。 まずその取り付き口であるアンガー広場から入る現在の駐車場には、 入り口部分に樹木が植えられ、 そこから小さなバロックガーテンの横を通り、 墓地前の幼児の遊び場にと連なっていく(図3)。

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4 ロスドルフ計画図
改行マークそれまで駐車場であったウィルヘルム・ロイシュナー通りに面した敷地には、 生垣と潅木を植え小公園とする。 また、 ここには必要がある場合に取り除きの出来るような鉢植えの樹木を並べ、 このような装置によって普段は小公園でありながら、 祭りの場合などテントを張ることが出来る場所を町の中心地に作っておく(図4)。


屋敷跡を広場に再生

改行マークそれまで放置されていたダルムシュテッター通りから入る大きな敷地は、 旧来の大地主の屋敷跡である。 計画にあたっては大地主の屋敷跡のモチーフを取り上げて敷地一帯の整備を行なう。 つたを絡ませたパーゴラで敷地を区切り、 屋敷跡の一部はレンガの基礎でそのなごりを残す、 広場には敷石を敷き、 その間に芝生が生えるよう広い間隔の目地をとる。

改行マークここに掲載した設計図には描き表わされていないが、 完成された現在はバロックガルテンの近くにあずまや風の大きな日傘を広げたような木造の屋根の休憩所が作られている。 屋根の下にはベンチが置かれていて若者たちのかっこうのたまり場となっている。 その奥には小さなキオスク風の小屋が建てられ、 この広場で催し物がある場合ここが売店になる。

改行マークこの夏、 都市計画協会の地区集会がロスドルフで開催された。 役所で村長の挨拶があり集会があったあとワインパーテイーがこの広場で行なわれた。 キオスク風の建物からワインと食べ物が運ばれた。 ごちそうは地元のワインとこれも地産のソーセージであった。

改行マークワインパーテイー参加者は40人ほどであった。 その折、 こういった公共広場でのパーテイーなので、 近くのあずまや風の木造屋根のベンチには3〜4人の若者らしいのがいたり、 広場を通り抜ける人も間々あるが、 すこしも雰囲気を損なわれることなく、 このように住民がここで自由にしかも優雅に戸外パーテイーが出来ることが実証された。 なお、 このロスドルフにはおいしくて値段の安い地元産の白ワインがある。


小都市の居住環境整備をめざす農村整備計画

改行マークロスドルフの農村整備計画をみてみると、 と書いていてロスドルフが農村といえるかどうかが疑問に思われる。 専業農家は2%弱で、 住民の大半がダルムシュタット勤務のサラリーマンというからすでに農村とはいえないであろう。

改行マークドイツの農村整備計画は、 ヘッセン州では1969年から実施されていて、 地域を取り上げて9年間、 計画地域内の建設事業費を補助する制度である。 年間ほぼ270町村が対称をうけ、 管轄は、 名称は時々かわるが、 農林省である。

改行マーク当初は農業経営援助の意味もあったが、 最近では「都市=Stadt」にたいする「村=Dorf」という意味での村落で、 この農村整備計画も農業促進よりこういった小都市の地域住民の環境整備が重点になってきている。

改行マークそういったことを踏まえてもう1度ロスドルフの農村整備計画=都市計画をみてみると、 この村落は本来道路が骨格、 すなわち道路が人々の生活の場所であった。 それが近年になってクルマに占領されて住民は戸外生活の場を失い生活環境が極度に悪化した。

改行マークそしてもう1つの特徴は、 ロスドルフには広場とかセンターや中心市街地、 あるいは旧市街地の歩行者区域といった、 共同体の連帯感をつくる空間がない。 地域への所属感をたくす場所がない。

改行マーク近年になって「都会の孤独」がいわれるようになり、 住まいにおける新しい近隣関係、 住民としての、 われわれ意識、 が模索されている。 そしてこれが現在ドイツ農村計画での重要な課題の1つである。

改行マーク都市は人がたくさんいる場所、 ただ人が大勢あつまって住んでいる場所、 ではつまらない。

改行マーク人の和を作っていく、 人の輪を広げていく、 それができるのが都市である。 所属感と人との連帯、 ふるさと感、 そんなものが生まれる場所がほしい、 人が集まって住んでいくのに快適性を与える場所を考え出して行くのも都市計画の重要なテーマの1つである。 現在一般に行なわれる都市計画ではなかなかこれまでいかなくて、 都市の必要施設とか欠陥施設の補充だけで都市計画が終わってしまうのが実状である。

改行マークこの点に焦点をあてたのが今回の計画例である。


計画の特徴

改行マークこのロスドルフで取り上げられたの計画の方法の特徴は、
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6 アンガーのある広場とガイスベルク周辺はウイルヘルム・ロイシュナー通りでつながっている
改行マークここに取り上げたガイスベルク周辺計画は、 パーテイー広場とか近郊緑地、 小公園などのいろいろな機能があげられるが、 町の中心部にある歩行者道路、 車の通らない近道として住民の日常生活に重宝されている事であろう(図6)。

改行マークロスドルフでは前後2回にわたって紹介した2つの事業によって、 町が少しだけ、 そして確実に良くなっているのが見られる。

ロスドルフ農村整備計画での民間投資金額1985から1995年まで93プロジェクト
投資金額8,556,800マルク (約 6.3億円)
補助金額1,320,800マルク (約 1.0億円)
ロスドルフ農村整備計画での公共投資金額1985から1995年まで25プロジェクト
投資金額12,152,800マルク (約 8.9億円)
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(C) by 春日井道彦
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